明治後半から昭和にかけて一般女性の普段着として着られていた着物「銘仙(めいせん)」をご存知ですか?
中でも、伝統工芸品にも指定され古くから業界をリードする存在だった群馬県伊勢崎市の伊勢崎銘仙。そのヴィンテージの着物をアップサイクルし、お洋服として生まれ変わらせている人がいます。
村上采(むらかみあや)さん。
" 文化を織りなおす " をコンセプトに、文化をほぐし、向き合い、新しい価値を添えて発信するカルチャーブランド「Ay(アイ)」への想いについて、お話を伺いました。
伊勢崎銘仙が自身のアイデンティティとなるまで
__村上さんが銘仙に興味を持ったきっかけは?
村上:銘仙との出会いは中学生の時でした。授業で銘仙が取り上げられ、そこで初めて知ったんです。元々は着物について詳しくなかったのですが、自身の地元である群馬県の伊勢崎市で、銘仙という着物が作られていたこと、しかもその生産量が全国1位だったことに衝撃を受けました。気がついたら銘仙に惹かれている自分がいて。地元にある文化を大切にしたいと思うようになりました。
___そこから実際に銘仙で何かしようという行動力がすごいですよね。
村上:中学生以来、ずっと銘仙に関わるようになっていました。15歳の時にアメリカに留学をした際にも銘仙を持っていたんです。海外の方が、着物は素敵だねと喜んでくださって、嬉しかった記憶があります。そうしていると、自身のアイデンティティのひとつとして銘仙があるという意識を持つようになりました。同時に、アジア人、日本人という視線で見られていることを通して、日本でも群馬という地域に対して自身のアイデンティティを感じるようになっていたんです。
___1度海外に出たからこそ感じ、気がつくことができた感覚だったのですね。
村上:そうですね。そして、アメリカに行って外の世界に触れる中で、今度はアフリカや国際協力にも興味を持つようになりました。その後、大学時代にコンゴ民主共和国へ行くことになったのですが、その際も銘仙を10着ほど持っていき、着付けワークショップや、歴史をお伝えするワークショップを開きました。
アフリカでの経験が洋服を作るきっかけに
___コンゴ民主共和国へ行ったのはなぜですか?
村上:きっかけは大学のゼミで、地域に学生自身が行き、現地の方と協働してより良い社会を生み出すという取り組みでした。その際、きちんとビジネス視点で、持続可能性を高めたいという想いを持ち、現地のNGOと連携して、シングルマザーやストリートキッズの雇用を生み出すという目的で、アフリカで生産したものを日本で売ることにしたんです。
___そうして生まれたのが、Ayの前身ともなるお洋服だったんですね。
村上:そうですね。2019年、アフリカの布で洋服を作って日本で売るというソーシャルビジネスを立ち上げました。その後、銘仙とアフリカの布をコラボレーションさせて何かをしたいという想いから、最初は銘仙とアフリカの布を合わせた洋服を作りました。
___銘仙とアフリカの布は一見掛け離れているようなイメージですが、実際に合わせてみてどうでしたか?
村上:銘仙というのは、当時全国各地で仕立てられていたようですが、その中でも伊勢崎明仙は原色を多く使っていて発色が良いんです。加えて、和柄が少なく、抽象柄や幾何学模様などのモダンな柄が特徴的。アフリカの布も彩度の高い色合いのものが多く、通ずる部分があると感じました。
コロナ禍で生まれたブランド「Ay」
___アフリカでの活動を本格化させる中で、日本国内でブランドを立ち上げたのはなぜですか?
村上:実は元々アフリカに渡航する予定もあったのですが、コロナ禍で中止になっていまいまして…。これまでアフリカでやってきたことができないもどかしさや悩みを抱えながら、一度地元に戻ったんです。そこで生活している中で、アフリカだけではなく、日本国内でも各地域に、それぞれの文化があることに気が付きました。それなら自分の地元の文化・伝統工芸に光を当てたいと思うようになり、一度「文化」に焦点を当ててみようと、方針転換をしました。
アフリカで経験したことを地元群馬で活かせないかと考えた結果、今の「Ay」のコンセプトに繋がっているのですが、この状況がなければ、もしかしたら違うことをしていたかもしれません。
___そうして2020年にAyを立ち上げられたんですね。銘仙を着てもらうことではなく、銘仙を使って洋服を仕立てようと思われたのはなぜですか?
村上:やはり中学生の頃から銘仙に関わってきた中で、どうしても着物を着ること自体がイベントになってしまうと感じていました。日常的に着たいと思ってもらうにはどうすれば良いのか?と考えを巡らせた結果、銘仙を使って洋服や小物にするという発想にたどり着きました。なるべく普段から身に纏える形にして、普段から少しでも文化を取り入れていただくことができたらと思っています。
___Ayの洋服にはヴィンテージの着物を使用されていると伺いました。
村上:はい、実は銘仙を仕立てるまでには14工程もあり、それぞれに特化した職人さんが必要なのですが、銘仙自体は文化的に衰退してしまっていて職人さんがほとんどいらっしゃらないため、新しいものを作ることができないんです。なので、ヴィンテージの着物を仕入れています。着物だと着られなくなってしまったものでも、洋服に生まれ変わらせることで、また着てもらえたら良いなと思いながら作っています。
時代を超えて文化を繋いでいくこと
___Ayの洋服は銘仙の部分は鮮やかなのに違和感なく着られるお洋服が多いですよね。
村上:伊勢崎銘仙は、縦糸と横糸の両方に色をつけて織っているので、とても鮮やかなのですが、その特徴を生かしつつ、派手な柄を落ち着いた生地と合わせるなど工夫をして設計しています。銘仙自体が派手だったり、ハイカラな印象があったりするので、それをどう活かすかを日々考えています。例えば大きい柄はスカートに大胆に使ってみたり、細かい柄はライン使いにしてみたり。銘仙の柄に合わせてデザインを変えていくのも、こだわりのポイントです。
___洋服を作っている中で、新たな発見はありましたか?
村上:着物は生地の幅が36cmと決まっていて、1柄につき1〜2着しか洋服が作れないんです。だからこそ難しい。でも面白いのは、着物って仕立て糸をほぐすと反物に戻るんですよね。昔の方は子供の時に着た小さい着物をほぐして、成長に合わせて仕立て直していました。リユースができる設計になっているんです。その素晴らしい文化に感動しましたし、着物をほぐした時、規則性があるからこそ洋服にも再利用ができると感じています。
___Ayは、モノを大切にする文化を受け継いでいるブランドでもありますね。
村上:Ayの洋服は、銘仙と現代の布を合わせて仕立てていますが、新しい取り組みとして、一部の洋服には使用済みペットボトルからリサイクルしてできた布を使っています。ペットボトルをリサイクルして布を作るというのは、今だからできる技術ですよね。昔の技術で生み出された伝統工芸品と、今の技術をコラボレーションできるのは、すごく面白いなと思っています。
___今後、Ayを通して叶えたい夢はありますか?
村上:銘仙のテキスタイルを復刻させた布、織物を作ることです。職人さんがいらっしゃらないので、銘仙の完全再現は難しいのが現状ですが、銘仙特有のテキスタイルを今の技術で再現させるということならできるかもしれない。まだまだ構想段階ですが、いつか実現できたらと夢見ています。
またAyの洋服が、日々頑張っている方達のご褒美的なブランド・存在になれたら嬉しく思います。Ayを通して、身につけることで文化を体験することができる世界を提供していきたいです。
Ay公式サイトはこちら
Edited by Ayene Kibayashi(@ayanen_n)