カポックという植物をご存知ですか。
これまで商品化が難しかったその素材の可能性を信じ続け、今、新しい選択肢を提案しているブランドがあります。
「KAPOK KNOT(カポックノット)」
生産者にも、消費者にも、そして環境にも寄り添うファッションブランドです。
KAPOK KNOTを立ち上げた、代表の深井喜翔さんにお話を伺いました。
カポックとの出会いが、自身の世界を広げてくれた。
___ブランドを立ち上げることになったきっかけは?
深井:もともと家業で繊維事業を営んでおり、物心ついた頃から繊維やアパレルの世界が近くにある環境で育ちました。目の当たりにしたのは、アパレル業界の大量生産・大量消費が生み出す多くの課題。また子供の頃からNPO「CISV JAPAN」に参加し、まだ世の中にサステナブルという考えが広まる以前から、サステナブルという領域に触れる機会があったんです。だんだんとソーシャルビジネスについて興味を持ち始め、大学で本格的に学んだことで、これをビジネスとして実現したいと考えるようになったのがきっかけです。社会性も事業性もあるカポックという素材は、これからのアパレル業界に最高に適していると思いました。
___元々アパレルに興味を持っていたのですか。
深井:いえ、実はアパレルには興味がなくて。どちらかというとアパレルは手段だと思ってきました。その中で、76年間、代々受け継がれてきた家業の延長戦でシナジーのあることをやろうと思い、自分に何かできるかを考えた時にKAPOK KNOTに辿り着きました。
___KAPOK KNOTの鍵となるカポックという素材について教えてください。
深井:カポックというのは東南アジアを中心に収穫されている、植物の木の実から取れるコットンです。ものすごく軽いという特徴と、繊維の構造から、吸湿や発熱をするという機能性を兼ね備えています。
___カポックとの出会いはどういうきっかけで?
深井:繊維製品の品質管理士の勉強をしていた時に、カポックの存在を知りました。当初は、羽毛を木の実由来の素材で代替することで、従来価格の高かった製品をより低価格に生産できるという面で価値を感じたのですが、調べていくうちに、動物を傷つけなくて良い、木を伐採しなくても良いなど、想像以上に社会的な価値も大きいのではないかというところに気がついたんです。ちなみに、従来のダウンの場合、1着あたり約30羽もの水鳥の羽が使われていると言われています。一方でカポックの場合、1本の木から約300個の実が取れ、そこから10着分のコートができます。
___実際にカポックの実物を見に行かれたんですね。
深井:そうですね、インドネシアのカポックを生産する農園まで頑張って行きました。最初は生産者や農園との繋がりもなかったので、直接連絡をして切り拓いていったのですが、現地の方にも「日本人でここまで来たのは初めてだよ」と言われました。笑
___行動力が凄いですね。そしてインドネシアの農園と取引を開始されたと。
深井:はい、実物を見てから半年後くらいでしょうか。自身で、一緒に仕事をしたいと思える農園と提携し、カポックを仕入れることにしました。
___カポックを扱う上での困難はありましたか。
深井:一番の課題は、カポックは軽すぎるという点でした。それに加えて短いので、繊維にすることがすごく難しいんです。大手企業と協働して数年単位で研究開発に取り組み、カポックをシート状にすることで商品化を実現しました。これはKAPOK KNOTでしかできない技術だと思います。
___ブランドスタートにあたり、そのブランド名に込めた想いを聞かせてください。
深井:素材の名前、「カポック=KAPOK」に、「KNOT=結び目」を加えました。ブランドロゴのモチーフは「水引き」です。水引きは永遠に続くという日本独自の想いを込めたものです。そのモチーフを使い、日本からグローバルに通じる持続可能なブランドを目指して、このロゴと名前をつけました。
また、ブランドコンセプトは「Farm to Fashion」です。農園からこころよい暮らしをお届けするため、商品がお客様の手に届くまで、自分たちで責任ある選択をしていくことを、この言葉に込めました。
「機能・デザイン・サステナブル」どれも切り捨てない 。
___私も実際に羽織らせていただいたのですが、ものすごく軽くて驚いたのと、デザイン的にも素敵なアウターばかりで感動しました!
深井:ありがとうございます。これは商品づくりの上で意識していることの一つで、サステナビリティだけに気を取られて機能性やデザイン性を我慢することはしたくないと思っています。実際に商品化する際にも、「機能・デザイン・サステナブル」の3つの観点から点数をつけ、社内基準を満たしたものだけを世の中に送り出すという基準づくりをしています。
___サステナブルだけを重視するのではなく、本来ファッションが持つ魅力や視点をベースに考えてつくられているのですね。
深井:サステナブルだから購入するということよりも、例えば可愛い・軽い・着やすい等のフィーリングから入って、かつその商品がサステナブルだったら良いよね、という考え方です。私自身、最近のサステナビリティ偏重に若干疑問を持っていて…じゃあサステナブルであれば大量生産して良いのか?という話ですよね。サステナブルというものに真剣に向き合って、バランスをきちんと保って運営できているブランドって実はそんなに多くないのでは?と思ったり…。だからこそ無理なく、人にとっても、環境にとっても、双方が嬉しいアイテムを生み出せていけたらと思うんです。
___デザインにもかなりこだわられていますよね。
深井:パリコレにも出ていた、costume nationalというブランドで日本のチーフデザイナーをされていた方が、デザインに加えて、一緒に撮影や店舗内装のディレクションまで入ってくれています。彼がいるからこそ、ブランドとしての一歩を歩みだせています。
___KAPOK KNOTとして最初に展開した商品はどんなものですか。
深井:ビジネス用のステンカラーコートです。中綿にカポックを使っているので暖かいのですが、その薄さは5mmと、一般的にスーツに合わせるような薄手のコートと見た目が変わらないのがポイントです。
___最初の商品が出来上がった時の心境はいかがでしたか。
深井:ワクワクと不安が入り混じっていました。これまでにない商品ができたという自負と、本当に市場に受け入れられるのかという不安が両立していました。
世界に発信していけるプロダクトをつくりたい。
___商品数も増やした現在、実際に手にとられる方からの反響はいかがですか。
深井:軽さやデザイン、また暖かさについて感動の声をいただくことが多く、嬉しく思います。また、ダウンを買うことに抵抗がありKAPOK KNOTのようなアイテムを求めていたと言ってくださったお客様もいらっしゃいました。年代も住んでいる地域も幅広く、多くの方に気に入っていただけることは本当に励みになります。
___ズバリ、KAPOK KNOTの人気アイテムは?
深井:たった500gでダウンの暖かさをもたらすエアーライトジャケットです!こちらの商品はMakuake of the year 2021にもノミネートされた商品で、非常に軽量なのに暖かく、防水防風も完備しています。雪かきやスノーボードなど零度を下回る温度環境でも快適に過ごせると、非常に多くのお客様から好評をいただいています。
___ ECで購入できるほか、日本橋のショールームも運営されているんですね。
深井:実はアパレル業界は生産した2着に1着を廃棄していると言われています。大きな商業施設で大量に販売すれば、その分ロスも大量に出てしまう。加えて、日本では法人が所有する不動産のうち10%は使われていないという情報もあります。新たに店舗やビルを作るのではなく、そういった遊休不動産を活用したショールームを運営できないかと考えました。こちらは通常予約制なのですが、そうすることで事前に顧客情報を確認でき、購入者は試着と決済のみで帰宅が可能なため、荷物になるアウターを持って帰る必要がありません。スマートな購入体験を提供できたらという想いで運営しています。なお、2022年3月3日からストーリーのあるサステナブルブランドが集まるPOPUPイベント「KAPOK marche」 を開催しています。
___これから、KAPOK KNOTでどんなチャレンジをしてみたいですか。
深井:これまで、ダウンに真っ向勝負!というのはあまりやってきていないので、取り組んでみたいと思っています。特に日本のブランドのアウターはかなり優秀で、世界に誇れるレベルなので、KAPOK KNOTも日本から世界に発信していけるプロダクトをつくりたいですね。
___KAPOK KNOTを通して、どんな世界を実現していきたいですか。
深井:誰もがこころよい暮らしを実現できる世界を目指したいです。私たちは、二項対立を超え、機能・デザイン・サステナブルが揃った商品をつくり、今現在はサステナブル参加コストを下げるアプローチをしています。従来、資本主義社会においては、経済成長という1つの梯子を皆で登り、その梯子の高さでしか幸せになりにくい世界でした。ですが、今経済成長以外にも、もっと豊かな暮らし方は 様々な選択肢があるべきです。KAPOK KNOTは機能・デザイン・サステナブルが揃った商品をつくることで、サステナブルの参加コストを減らし、こころよい暮らしがもっと身近になっていく世界の手助けをしたいと考えています。
▶︎KAPOK KNOT公式サイトはこちら